「犬猫」

雑誌クウネルで部屋を紹介する記事を見かけてから、ずっと行きたいと思っていた。池袋はちょっと遠いと思ったけど、思いきって行ってきてよかった。
この現実の中に身をおきたいかと言われればそうでもないけど、でもずっと観ていたい映画だった。空気が気持ちよくて。
幼稚園のころからのともだち、いつも同じ男の子を好きになってしまって、決して仲のよくない女の子二人の共同生活。
陽子とすず、どちらのタイプかと聞かれたら、わたしはどちらにも入らないけれど、でもあえて言えば陽子のほうに共感を覚えるかな。バイト先の気になる男の子に万感の思いをこめて「更衣室のカギは?」と何度も問いかけるところとか。その男の子がいとも簡単にすずと仲良くなってしまうのを見て、なんだかもう本当にどうしようもなくなって、重たい眼鏡をとり、初めてコンタクトをつけて元彼に会いにいく、そのどうしようもなさとか。最悪な気持ちで元彼の家へむかっている途中のバスの中でものすごく冴えない男に話し掛けられてしまうところとか。なにをやっても言っても、そのなんともいえなくどうしようもない感じが、泣けるほどに絶妙で笑ってしまった。
「どうして私じゃだめなの?」という陽子の問いに対してピントのはずれた答えしかしない元彼や、すずに「もう帰る?」と聞かれて「どっちでも」と応えてしまう男の子や、男のひとの鈍さの描写も絶妙で情けなく、やっぱりなんだか泣けて笑えた。
渦中にいるとどうしようもなく情けなかったり腹が立ったりすることも、こうやって距離を置いて眺めれば、なんてとぼけて可愛らしくおかしな出来事なんだろう。
藤田陽子ちゃんは写真で見るより、動いているほうが何倍も可愛いかった。そしてふだんどちらかといえば榎本加奈子ちゃんのほうが、すずのような男受けがよくて女友達には煙たがられる女の子を演じている機会が多いような印象だけど、今回の陽子のような役のほうが彼女には似合っている気がした。少年のような体つきが、いつも頑張っているんだけど空回りしている女の子によく似合っていた。(いや、別に似合っているわけではなく、それはやっぱり彼女が女優だからなのかもしれない。)
音楽が鈴木総一郎さんだった。