井ノ原快彦「アイドル武者修行」

井ノ原快彦「アイドル武者修行」にざっと目を通した。
この本でもっとも秀逸なところは、これ以上ないくらいに大きないのっちの顔のアップの写真が印刷されたカバーをはがすと、本体の表紙と裏表紙いっぱいに1988年当時のいのっちがバク転の練習をしている写真がバーンと印刷されているとこではないだろうか?
今の流行からは明らかに遠くはずれた微妙なファッションのいのっちが、ホテルの一室でバク転をしている。カメラは少年いのっちが宙をとぶ、まさにその瞬間をとらえている。
アイドルにとって名刺そのもののような顔写真をカバーにつかい、それをはぐと、アイドルとしての顔を支えてきた地道な努力のあと(ときに成長期の骨がゆがんでしまうくらいの激しい練習)があらわれる構造だ。
しかしその努力の証明ともいえる写真は、友達の伊藤君が撮影した、ファッションも微妙ならロケーションも微妙、いのっちのポーズも微妙、もちろん構図も微妙という、あまりの微妙さゆえに見ているとちょっと笑えるような写真なのだ。このカバーの中にこの写真を使う、そんなところにいのっちのセンスと、この本に対する深い愛情が見て取れるような気がする。特に本文を読んでから眺めると。
仕事への真面目なとりくみと、でもユーモアはいつも忘れずに、なおかつ、ちょっと王道からはずしていきたい欲も見て取れる気がする。いのっちってこんな人なのかなと、色々想像できて楽しい。著者の愛情がこもった、よい装丁だと思う。