表現者にとってしあわせなこと

シャーロック・ホームズを演じる以前のジェレミー・ブレットがイギリス国内でどういう評価を受けていた俳優だったのか私には想像しかねるんだけど、簡単に調べる限りでは、若い頃には世界的に有名な映画に大きな役で出演しているし、それ以降もテレビや映画で活躍し、そもそもは舞台で精力的な活動をずっと続けていていくつかの賞も受賞しているし、一般的にも名の知られた俳優さんだったことは間違いないと思うのだけれども、それでも、「ホームズに出会うまでは常に自分で役を捜していた」といった発言もしていた…となにかで読んだこともあり、もっと活躍したい、もっと俳優として飛躍したい、乞われたい…という忸怩たる思いを、本人はもしかしたら持っていたのかもしれない。


ホームズで世界的な人気を得て以降は、ホームズのドラマの撮影に追われて、そしておそらく健康を害していたため、ホームズ以外の役を演じる機会はあまりなかったようで、それはとても残念で、もっといろいろな役でジェレミー・ブレットの演技を観たかった。


だけどジェレミー・ブレットのホームズは、30年もの長い間、何度も何度もテレビで放映され、世界中でずっと愛され続けていて、それって、なにか人に鑑賞してもらうものを作る仕事をする人間として、こんなにも幸せなことってない。


今また『シャーロック』のおかげでホームズそのものが盛り上がっているように、シャーロック・ホームズの優れた映像化がなされれば、そのたびにきっとジェレミー・ブレット版の『シャーロック・ホームズの冒険』も注目を浴びるだろうし、それは、俳優としてほとんど永遠の命を得たようなことだなあ、と思う。
ジェレミー・ブレットは死の間際まで、演じるという仕事に魂を捧げていた人だと思う。本人の肉体はなくなっても、だけど、その魂はほとんど永遠のように、光る画面の中で生き続けるんだなあと思うと、ジェレミー・ブレットはとてもとても幸せな人だなあと思う。