ジョン・バーニンガム絵本原画展 と 陰日向に咲く

大丸ミュージアム「ジョン・バーニンガム絵本原画展」
30分しか時間が無かったので、超駆け足でしたが。
ジョン・バーニンガムについてはほとんど何も知らなかったので(本屋で平積みされているのを見かける程度)、予備知識が無く、目の前の原画が絵本ではどう処理されているのかわからずに見てしまったのが残念でした。原画展の面白さ有り難さをフルで実感することができない気がして。でも、それを差し引いても有り余るくらい、とても楽しい展示でした。
イギリス人らしい暗さのある描線で、ユーモアの質がなんとなく神経質だと感じられるのですが、その一方で、思いきった画法を自由な発想で楽しそうに試しているのが、発想の飛躍に対して怖れを持たない人なんだなあと、感嘆の気持ちで眺めました。それから、日射しや空気感といった、形じゃないものの表現にとてもろうたけた画家なんですね。秋の陽の木漏れ日や、春の陽のあたたかさが、軽やかに、そしてなんだか本当に、その空気に触れることができそうに表現されていて、目に気持ちよかった。
気難しさと楽しさと暗さと、そして知性のあるやさしさが、複雑に、だけどバランスよくいり組んでいて、面白い展示でした。





陰日向に咲く
とても丁寧に作られた映画でした。役者さん達がそれぞれ魅力的に役を演じており、そんな意味では、見て楽しい映画でした。
特に緒川たまきは素敵だったな。この映画において、全ての役者さんが適材適所であるとは思わなかったのですが・・・たとえば宮崎あおいちゃんは、それはそれは可愛くて眼福だったし、可愛いだけじゃない屈託もにじみ出ていて、宮崎あおい、あなどれないな・・・いや、あなどっちゃいないけど!と感じられたけど、かといってあの役があおいちゃんでベストだったかというと、いささか疑問が残りました。あおいちゃんと伊藤君のツーショットが、さほどしっくりきているようには、私には感じられなかったんですよね・・・でも、緒川たまきに関してだけは、他に誰があのジュピターさんをあんなふうに神々しく演じることができただろうかと考えると・・・思いつかないんですよね。唯一無二のキャスティング。それに意外と緒川たまきと伊藤君の相性が良くて、並んでいると、カップルには見えなくても、二人の間になにかしらのドラマが感じられる気がしました。あの緒川たまきのためだけにも、見る価値のある映画だと思います。
岡田君は・・・岡田君の映画を見ていて、おそらく私は、これが初めての経験だと思うんだけど・・・岡田君が、本当に普通の男の子に見えました。岡田君が演じているということを、意識せずに見た。「あっ、岡田君が演じてる。あっ、笑った、怒った、泣いた!ちょっとアイドルっぽいポーズをとった!」などといちいち反応することを忘れて、本当に、劇中の沢渡君に、あきれたり怒ったり、「駄目なやつだなあ・・・」と思ったりしました。
三浦さんと並ぶと(身長差がありすぎるのが、ちょっと難なのですが)とても良い空気感で、実際に親子に見えました。三浦さんがまた良い具合に存在感の薄い、頼り無い父親の空気を自然に醸し出しているんですよね。三浦さんの演技は好きだなあ。
二人が並んで写真を撮る映画のラストシーンでは、台風一過の夕暮れの澄んだ光が控えめに注ぎこんでいて、非常に印象的な、優しさのこもったシーンでした。そういえば、空の描写が心に残る映画でした。

以下、ネタバレの感想。









ただ悲しいことに、岡田君の演じた役を、私は好きになることができなかったなあ。あんまり感情移入ができなかったし、それに、決定的に駄目だと感じてしまった点は、ジュピターさんの部屋で、感極まってジュピターさんを「母さん」呼ばわりしていた点です。お前、何自己陶酔しているのだ、と。せっかく良い感じで泣ける雰囲気になっていたのに、一気に醒めてしまいました。あのセリフがあったがために、岡田君がせっかく良い芝居をして泣いているのに、なんだかとてもしらじらしく見えてきてしまったんですよね。
あと、芸人さんのエピソードで、それぞれが別のひとに片思いしていたのが理由で芸人をしていたのだ、と語られるところ、芸人さんが原作者の映画なのにこんな描写なんだなあと、ちょっとげんなりした。芸人になるって、たぶんもっとエゴイスティックな衝動があるものなんじゃないだろうか(っていうか、そうであってほしい)。もしかしたら劇団ひとりの描いた原作はもうちょっと違うのかもしれないけれど、もし原作がこのとおりで、これを『いい話』として描いているのだとしたら、劇団ひとりにはちょっとがっかりだな。正直なところ。
うーん、なんだかな、もうひとつ、なんていうか・・・残念な映画でした。