古賀春江展

神奈川県立近代美術館葉山館で先週まで開催されていた『古賀春江展』を見てきました。
古賀春江の絵は、子供の頃、八幡宮のところにある近代美術館の本館に行くたびに目にしていた覚えがあります。常設展で飾ってあったんじゃないかしら。可愛らしくもの哀しい絵を描く人だなあと印象に残っていました。今回の展覧会のポスターになっている「海」は、その頃から、そして今も、とても好きな作品です。


今回、生涯にわたっての作品を初めて目にしてみて、著名な画家としては珍しいと思うんだけど、ちょっと笑ってしまうくらい画風がころころと変わっていて、ただ作品の流れを見ていると、作品を作ることが、彼が自分自身のアイデンティティを獲得していくまでの旅そのものであったのだなあと強く思わされました。

有名な画家は、私のなんとなくの感じなんだけれども、ごくごく若いうちから自分のスタイルを持ち、それをゆっくりじっくり完成させてゆく人が多いのじゃないかなあと思うんだけど、古賀春江はおそらく、そういうタイプじゃなかったんじゃないかなあ。彼自身は、若いうちから才能もあり、きらきら光るなにかを持っていたけれども、自分自身が安定しないというか、自分が何であるのか、本当のものが何なのか、常に心が揺れ動いていた人なんじゃなかろうか。
とても勉強家で、勘も良く、そのときどきで興味を持っているもの(画家)の影響をもろに受け、それをどんどん咀嚼し、でも「もっと自分にぴったりくるなにかがあるはず」と常に、もの凄いスピードで貪欲に捜し続けた人なのだろうなと。

死に近い三十代なかば(37か38歳のときに早逝しています)に、それが花開いたように思いました。彼が持っている安定しない世界をつなぎとめる方法を手に入れたというか、それを自在に表現する画風というか、表現技術を獲得したことで、これはもう単なる私の妄想だけれども、芸術家としてというよりも、ひとりの人間として、自信を獲得し、多幸感があったのじゃないかしら・・・

ものすごく早いスピードで自分探しをし、そして変化していく古賀春江の作品を見ていたら、なんとなく岡田君のことを思ってしまった。
古賀春江は早逝だったけれども、岡田君には末長く作品を作り続けて欲しい。