落下の王国

監督:ターセム
脚本:ダン・ギルロイ、ニコ・ソウルタナキス、ターセム


映画館で見て、好きだった映画です。このたびテレビで再び見たので。テレビで見ても勿論素敵なんだけど、これは本当に広くて美しくて豊かな映像なので、ぜひ映画館の大きなスクリーンで見るべき映画だなあとは思う。


自殺願望のある元スタントマンの男が、女の子をだますためにおとぎ話をでっちあげる。
そのおとぎ話(おそらく少女の頭の中に思い描かれているはずの…)がそのまま映像になって繰り広げられるのだけれども、その、現実の病院の画面(スタントマンと女の子が入院している)から、画面がおとぎ話の世界に変わってグッと世界が広がる瞬間のなんて気持ちよいこと。ハッとさせられる。人の想像力って無限に拡げることが可能なんだ、本来は、どこまでも高みを目指せるはずなんだ、と、見ていてすごく心が開かれる気がする。


お話自体は、なにしろ元スタントマンがその場しのぎにでっちあげてゆくものだから、ごくごくたわいものないものだし、整合性もないのだけれども、でもそれが、それだからこそ、すごく素敵なんだと思う。整合性がないからこそ、そこから広がる画面の美しさに胸を打たれてしまうのだな。ああ世界って、理解できないほど魅力的なのだっていうか、あるいは人間の脳内って知っているよりもずっとずっと広いのだろう!っていうか。書いていること矛盾しているような気もするけれども。
なんていうか…見ている自分の頭の中で、なにかの興奮物質がずっと出ていた気がする。


おとぎ話のシーンは本当に美しいのだけれども、現実の病院の場面も素晴らしくて、特に自分のせいで大怪我をしてしまった女の子のために、スタントマンが泣くシーンは、完璧な美しさだなあと思って好きだった。頭に包帯を巻いた女の子や、スタントマン演じるリー・ペイス(初めて見た俳優さん)の端正な顔立ちが、身体つきや身につけている寝巻きやガウンも含めて、涙にまみれた表情も含めて、ああ、まさに、まさに、この画面になんてぴったりなんだろう!と、なんだかよくわけのわからない感動の仕方をしてしまった。


ただ、おとぎ話の終盤になるとだいぶツメが甘いというか…それまでの「どこまででも行ける」感じから、急に現実的な都合のよい展開になってしまいテンションが落ちてしまうのが残念といえば残念なのだけれども。でも、だからこそ、愛らしさのある映画になっているような気もする。


映画のさいご、退院したあとの女の子が映画を見るくだり、好き。こここそ、映画全体の言いたかったことを集約したみたいなシーンだなあと思う。


衣装が超素敵なんだけど(衣装自体がお話の一部になってる)、石岡瑛子さんのお仕事。