天地明察

面白かったです。

数学者について書かれたものを読むのはわりと好きで、自分は数学に1ミリの才能もやる気もないのですが、だからこそ、数学者に憧れの目をむけてしまう。たぶん彼らには、数の世界が実際にビジュアルとして目に見えるんじゃないかなと思っていて、それはどんなに美しい世界なんだろうと夢想してしまうんですよね。高名な数学者たちは、独特の美学に突き動かされて生きているが故の奇人が多かったようで、それってなんていびつでロマンチックな人種なんだろうなあとわくわくしてしまう。ただ、頭がざるなので読んだそばから知識が抜けていってしまうのが非常に残念。


猿之助さんが演じた関孝和については過去に本で読んだことがあります。彼こそ、死後何十年もたってからその功績が認められたけど、小さな閉ざされた島国の中で、世界的にも驚くほどにすすんだ数理の展開を、独自の手法でおさめた人ですよね。また、確かその同じ本の中に改暦のことも記されていて、暦というものがいかに世界の理をあらわす、宇宙と歴史とロマンと生との結晶であり、だからこそ、政治と権力とを司る存在であったことも端的に説明されており、とても感動した覚えがあります。


天地明察』が改暦についての映画だというのは公開の直前に知り、俄然興味がわいてきました。安井算哲、おかしな人なのかな、岡田君はどれほどのおかしな美しいひとを演じるのかな、と。
見てみたら期待したほどの奇人ではなかったけど、世界の理を数字によって知ろうとするひとたちの、その純粋な素直な衝動や感動が伝わってきて、映画の前半は、特に北極星観測のエピソードはすごく楽しかった。「美しい設問を作ることができる」「その美しさを理解することができる」という独特の、だけど本当の意味での美学によって算哲さんが皆に認められてゆく過程は見ていて心地よかったし、嬉しかった。その算哲さんの目があんなにきらきらしていたら、そりゃ誰もが協力したくなるよなあ。それで、あんなふうに大変な思いをして旅をしているのに、観測機器がどれも美しくて立派で、いちいちが儀式のように恭しく進行されることに、天体に対する敬意と恐れと深い思いが感じられて、それがとても素敵でした。


岡田君の、目がいい目がいいと言われてましたが、わたしは「口元がいいんじゃないのかな」と思いました。確かに目が綺麗なんだけど、それに加えて、岡田君て口元が若干だらしない。気を抜くとポカンとあいているせいもあるけど、というより…本当に若干なんだけど、閉じていてもしまりが悪い感じがありますよね。骨格自体の、口元がすこし出ているせいかも(ちょっとゴリラなんかに近い)。でもそれが、岡田君の顔をとても無垢に見せているように思う。目だけだったら、もうすこし精悍な印象になるんじゃないかな。算哲に接したひとたちは、こんな綺麗な目をしたひとが口元しまりがないなんて、なんて可愛そうなんだ!とほだされたんだろうな…と思ったりしました。

岡田君鑑賞者として好きだったシーンは、さいごの勝負で日蝕を待つとき、腹を切れと言われたときの静かな表情。どういうこころもちでああいう表情になっているのか推し量りづらくて、でも、それがよかった。もうひとつ、「帯をといてください」ってシーンがいいってネタばれを先に読んでしまっていて、見たらあんまりにもそのままで拍子抜けしたけど、そのあとの岡田君のにやけ具合は素晴らしかった。


原作も読んでみたいと思いました。そのうち。