木村荘八展

ちょっと偉い先生と会食。お昼にペニンシュラホテルで。
食事が済み皆さんと別れてから、今から家に帰っても仕事をするには中途半端な時間だし、ちょっと寄り道して帰ることに。昨年の秋からきゅうきゅうと仕事をしていて、ずいぶん長いこと空き時間を気ままに過ごすような気分になんてなれなかったから、「寄り道しよう」と思ったらその途端ひどく嬉しく開放的な気持ちになった。いや、もちろん秋からこっち仕事ばっかりしてたわけじゃないし、仕事は好きだし忙しいのも嫌いじゃないし、ましてやフリーで仕事している身の上には仕事があるのはそれだけで有り難いことだけれども、でもところどころで休みが、それもひとりで過ごせる休みが入らないと、気持ちが息切れして辛い。

東京ステーションギャラリー木村荘八展に行きました。新しくなってからステーションギャラリーに行くのは初めて。有名な、永井荷風の『墨東綺譚』の挿絵は、まあ圧巻だった!構成も筆の運びもうっとりするほど巧みだし、新聞小説の、決まったかたちの挿絵のスペースの矩形のいっこいっこに小さな世界が詰まっていて、宝石箱みたいにきらきらしてた。なんだけど、それでいながらなおかつ、見る人の想像をかきたてる余韻のある描き込み具合。筆の止めどころが絶妙にうまいのだなあ、きっと。
自分自身は(昔の挿絵画家は皆そうなのかもしれないけど)油画家だという思いが強かったとのことで、晩年に毎日描いていたという、家の窓から見える景色の油彩画も好きだと思ったけど、でもやっぱり、挿絵にこそこのひとの魂の核の、いきいきとした部分が綺麗に現れているように感じたなあ。タブローでも、静物肖像画も素晴らしいのだけれども、雑踏やお祭りの「場」や「空気」をざくっと切り取るその切り取り方の鮮やかなこと。

文化と、土地と、情緒と、その全てを切り取る。挿絵ってこういうことなんだなあと思った。
ギャラリーを出ると、東京駅のエントランスの二階に出た。眼下に、かつての面影を残しながらもモダンに生まれ変わった東京駅を今を生きるひとたちが足早に行き交っている。木村荘八描く「昔の東京の世界」から、急に「今の東京」に引き戻される感じが、また心地よかった。


ひらパー兄さんのポスター、見た!