歩いても歩いても

是枝監督の映画、私が見たのは『幻の光』『ワンダフルライフ』『花よりもなほ』『空気人形』『そして父になる』そして、『歩いても歩いても』。

どの映画にも死の影が濃厚に漂っているなあと感じるんだけど、この『歩いても歩いても』は特に、登場人物たちがずっと「死」をめぐる会話をくりひろげているかのような印象の映画だった…と思って見終わって、もう一度見返してみたら、いや思ったほどには死ばっかり話題にはしてなかったけれど、でも、映画で描かれる一日が亡くなった長男の命日だったり、夏川結衣は前夫を亡くしていたり、小学校のうさぎが死んでしまったエピソードがはさまれたり、映画の中で元気だった両親がその三年後にはあいついで亡くなったことが最後に語られたり、だからやっぱり、いつもより登場人物たちの意識がもうちょっと直接的に死に向けられているというか、見ている私の時間も、死のまわりを気持ちがぐるぐるぐるぐるまわりながら流れてたように思う。


そして父になる』が中年男性の個人的なお話だとしたら、この『歩いても歩いても』は老夫婦が住んでいる家そのものが主人公のような映画だった。広くて古くて家族の歴史が詰まっていて、家中に影があって、そしてちょっとずつ朽ちはじめている。この家に住む樹木希林原田芳雄も、もう半分ほどは死をまといはじめていて、この世とあの世がつながっているかのような、二人はそのはざまの場所で生きているかのような、そんな映画だった。
でもそれって、当たり前のこと、ごくごく普通のことなんだよなあ、きっと。生きていることと死んでいることは地続きで、だからこそ、なんでもない夏の一日が、こんなにも重い意味を含んで輝くんだよなって思う。


樹木希林は、彼女の成分の80%くらいは、既にもう妖怪になっているみたいに見える。