まだらの紐

グラナダ版のシャーロック・ホームズは、シドニー・パジェットの絵をも、また、ドイルの原作と同じように「原作」として大事に扱っていたそうで、わたし程度のゆるいファンが見ても「ああ!パジェットの絵と同じ構図だ」とか「この登場人物、パジェットの絵にそっくり!」なんて興奮します。

シドニー・パジェットの絵を意識した画面づくり…という意味で、グラナダ版の中で特に好きな作品があります。「まだらの紐」です。「まだらの紐」の中の、呼び鈴の紐をステッキで打っているホームズの絵は、シドニー・パジェットが描いたホームズの挿絵の中でもわりに有名なほうだと思うのですが(「まだらの紐」が有名で人気な作品だからですよね)、グラナダ版「まだらの紐」のなにがいいって、この有名なステッキのシーンをドラマ本編の中では流さずに、お話が終わったあとエンドクレジットと共に流すところです。これ、素晴しい構成!
本編で「あれ?肝心の、呼び鈴の紐を打つシーンは映さないのか」と思わせておいて(ここが事件の重要な謎解きの一部分であるわけですが、でも映さなくても、ちゃんとドラマとして成り立つんですよね)、さいごのさいごにそのシーンが流れます。パジェットの絵そのもの…ではないのですがが、意識した画面づくりであることには間違いなく、そしてこのシーンをさいごにもってくるという方法が、シドニー・パジェットのあの挿絵を一幅の絵として鑑賞するかのような構成だなあ!と思って、なんかこう…すごくわくわくするんですよね。展覧会の絵を鑑賞するみたいな気持ちになる。ドラマ全体が、パジェットの「ステッキをふるうホームズ」の絵に集約されていて、そのために作られたドラマのように思えてきて、それがとても贅沢な絵画鑑賞みたいな気がして大好きなのです。音がステッキの音以外ほぼ無音(エンディングっぽい音楽は流れてますが)なところも効果的だなあと思います。
このときのジェレミー・ブレットの、紐を見つめる横顔も美しいし、たれさがった紐をステッキでうつ…だなんて、非常に間抜けな動作なのに、その動きも優雅で美しいです。さいごに「見たか、ワトスン?!」といった感じでくるっと振り向くところも好きです。