ボスコム渓谷

毎週放送されている『シャーロック・ホームズの冒険』ハイビジョン・リマスター版の先週の放送は「ボスコム渓谷の惨劇」で、今週…というか今夜は「ソア橋」です。どちらも好きな作品で、第6シリーズまである中の第5シリーズの作品です。


ジェレミー・ブレットのホームズは「パジェットの挿絵から抜け出してきたようだ」と言われたそうですが、でも正直なところ、私自身が本当にそうだなあ!そのとおりだなあ!と思うのは、第2シリーズまでの最初の13作です。それ以降のものはよくないということではなく、この13作品の中のジェレミー・ブレットが、当時はまだ健康で身体のキレがよく痩せてもいて、もう本当に神々しいほどに素晴しすぎるのです。それに、シリーズ初期の作品は原作にほぼ忠実に話が展開されるので、単純に「ああ、あのお話がこんな素敵な映像で見られるだなんて!」と目と心が喜びます。なので昔は、最初の13作…うーん、第3シリーズも含め計21作かな…ばかりが好きでした。


でも今は、後期のシリーズも初期のシリーズに負けないくらい好きです。ワトスンもホームズもすこし歳をとって、ワトスンとの生活にすっかり慣れ切ってしまったのかホームズは最初の頃よりもうすこしこどもっぽく、ワトスンを信頼し切って無理なくわがままを言っているように見えて…実際大きなこどもに見えるシーンも多々…とてもチャーミングだし、それを苦虫をかみつぶしたような顔で受け入れ、お母さんのように甲斐甲斐しく世話をやくワトスンは、感動的なまでに暖かく素敵な人です。そしてなにより、それを演じているワトスンのエドワード・ハードウィックとジェレミー・ブレットの演技の掛け合いが素晴しくて、見ていてとにかく気持ちよくて楽しいのです。


「ボスコム渓谷」では、ホテルの庭で事件についての新聞を読むシーンが、二人の関係がよく表れているように思って、好きです。事件を担当するサマビー警部のことを語る二人、以前彼と一緒に解決した事件のことをうろ覚えのワトスンにすこしムッとするホームズ、でも「君の崇拝者だ」という言葉に自慢気にニコッとしてしまうところとか。こんな短いシーンの間に、二人の関係性や存在感が細やかに鮮やかに表現されていて、見ていてすごく楽しい。
そして、でもやっぱり、どんなときにもジェレミー・ブレットは美しいなあと、ため息が出るような気持ちで見つめてしまいます。


初期の13作品のようなひりひりするような緊張感溢れる色気は控えめになりましたが、後期の作品では、しみじみと味わい深く可愛らしいホームズと、ワトスンとの友情という暖かく複雑に絡まり合った繊細なドラマがより掘り下げられたかたちで見られるなあと思うのです。