映画『プレステージ』

プレステージ』の続き。たまたま迷い込んでこの文章を読んでしまう方もいらっしゃるかもしれないので念のためさいしょに書きますが、たぶん、かなりネタばれしてます。



魂を売ってしまうほどなにかに魅入られることに一抹のあこがれはあるけれども、でも実際にこれだけ壮絶になにかを追い求めるって幸せなことなのかな。ふたりはちっとも幸せそうじゃないし、アンジャーに至っては最高のマジックを手に入れてから一層不幸そうだ。彼の人生において最終的に何か得られたものがあったろうか?と考えれば、実質的な意味ではなにも手に入れておらず、むしろ失ってゆく一方だったし、彼の最高のマジックも、本当のところそれはマジックですらなく単なる結果を見せ続けているだけだし、そして死の間際には「ボーデンに勝った」という認識すら打ち砕かれてしまったのに、でもさいごは満足そうに見えるんですよね。
アンジャー(とボーデン)は、さいしょはお互いに対する憎悪や嫉妬にからめとられ、はりあったがために道をひきかえすことができなくなり、結果としてマジックという「美しいもの」をどうしようもなく追い求め続けずにはいられくなったんだろうと思うんだけど、彼らは、ふたり出会っていなかったら、こんなに壮絶に追い求めることはなかったかもしれないし、でもだからこそ、ひとりでは辿り着けないところまで行きつき、普通のひとには見ることが不可能な景色を見られたのかなと思って、とはいえ、その源が最初は憎悪から始まったんだと思うと、ああ、なんていうか…すごく胸にしんとくる。

アンジャーは身を滅ぼしてしまうけど、彼はその手になんにも持たずに逝ってしまったようでありながら、その実、人生に求めたものはもうすべて手に入れてしまったのかも、だから死んでしまったのかもしれないと思う。